マネジメント・リーダーシップ

事例研究:「リーダーシップ」って何?

専業主婦の恵子さんはPTAで知り合った野中さんの会社でアルバイトをすることになりました。
PTA会長を務めていた野中さんが、副会長として一緒に働いてくれた恵子さんの人柄とその働きぶりを見込んで声をかけたのでした。

早速、野中さんの会社で総務の仕事に就いた恵子さん。しかし、毎日が失敗の連続です。
結婚前に数年、一般企業の事務職として働いた経験があるだけで、その後、20年近くのブランクが開いているばかりか、もともと物静かな恵子さんは、野中さんの会社の活発な雰囲気に圧倒されてしまい、自ら進んで口を開くことがなかなかできないのでした。

そんな恵子さんに苛立ったのは総務部長の杉本さんでした。
「社長!なんであんな人、たとえアルバイトでも雇ったんですか?パソコンのスキルだってイマイチなんですよ!!足手まといになるばっかりで迷惑なんですけど!!!」
物凄い剣幕の杉本さんに対して、野中社長はこんな話をしました。

恵子さんは僕が息子の学校のPTA会長だった時、副会長をしてくれたんだよ。僕が仕事でなかなか参加できない役員会議や行事の準備を恵子さんが取りまとめてくれて、他のやる気のないお母さん役員たちの心に火をつけてくれて、とても助かったんだよ。
PTA役員なんて、やりたくてやっている人はほとんどいない。みんな、仕方なく、やらされ感いっぱいでやっている人が大半なんだ。
恵子さんだってくじ引きで副会長になっただけで、好きでなったわけじゃない。それでも精一杯やってたよ。
パソコンはできない。算数というかお金の計算は苦手。家庭的なこともあんまり得意じゃないみたい。スピード感にも乏しい。どちらかというと物静かでおとなしいタイプ。言葉は悪いけど、どんくさいタイプと言った方が近いかもしれない。けどね、みんな恵子さんの言うことは聞いてたよ。

例えばバザーの時なんか、出し物をどうするか、役割は、準備から実行までの計画とその具体的な内容、会計、後片付けとか、全部、恵子さんが他の役員たちのやる気スイッチを押して成功裏に収めたんだよ。
信じられないだろう?あの恵子さんがだよ?!

彼女は決して偉そうにしない。基本的にはいつも縁の下の力持ちだ。
副会長だからと言って自分が目立つんではなく、それぞれの得意分野に応じてみんなに花を持たせてあげて、自分は黒子に徹していたことが多かったかもしれない。

それに、他のお母さん役員たちの不満や愚痴、文句の話をよく聴いていた。時にはお子さんの話、家庭の話なんかも本当によく聴いていたみたいだよ。
みんな恵子さんに話を聴いてもらいたくてPTAの集まりに来るようになった感じもある。
第一、彼女は人の悪口は絶対にけど、言わない。批判もしないし非難もしない。
だからみんな、彼女と一緒の場は安心安全なホッとする場なのかもしれないね。

何か行事や決め事があると、彼女はいつもそのゴールをみんなに笑顔で語っていた。
そしてゴールに向けて面倒なことがあっても、自分達の頑張りのその先には、子供たちの笑顔があるんだということを、あの物静かな口調でみんなに語り掛けていたよ。だから、文句を言っている役員たちも、子供の笑顔を楽しみに頑張っているところもあったみたいだね。

他にもいろんなエピソードがあるけど、とにかく恵子さんが、あのワガママで自分勝手だったPTAのお母さんたちをまとめたそのリーダーシップに、僕は恐れ入ったと思ったんだ。リーダーシップというか、最終的には彼女のためにみんなが頑張ったと、そんなチームを彼女が創り上げたといったところかもしれないね。
それで、この会社でも恵子さんが良い影響を与えてくれるといいなと思って、アルバイトを僕からお願いしたんだよ。

杉本さん、恵子さんは総務の仕事は全然できないかもしれない。新入社員並みかも。
しかし、恵子さんから学ぶことは山ほどあると思うんだよ、僕は。君はどう思う?

あなたは恵子さんのどんなところに「リーダーシップがある」と思いますか?
あなたが恵子さんから学ぶとしたら、どんな点を学びますか?

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