組織開発

戦わない選択

何かにつけて言いがかりめいたことを言ってくる人はいるものです。
弱い者いじめ? 憂さ晴らし? なんでそこまで言うの?
傍で見ていても思わず眉間に皺を寄せてしまうほどに、誰かに対してあーだーこーだと難癖めいたことを言う人がいます。

ベストは関わらないことですが、これが直接のマネージャーだったり、どうしても無視できない関係先だったりするとまさに悩みの種。
相手を無視するわけにもいかず、どうしたものかた頭を悩ませてしまいます。

Yさんのグループには、いつも自分の意見を主張して絶対に譲らない先輩Mさんがいます。
Mさんはいつどんな時も一生懸命なのですが、それが空回りしてしまって自分の意見を押し通すことに固執してしまい、しばしば周囲との衝突が絶えません。

チームミーティングのアジェンダに、Yさんが取り組んでいる仕事のサポートをチーム全体で行ってはどうかとKマネージャーが提案した時のことです。
YさんがマネージャーにSOSしたわけではありません。
Yさんにとってもチームにとっても、そしてお客様にとってもそうした方が良いのではと他のメンバーから声が上がり、それをKマネージャーが取り上げ、チームでの検討事項としてミーティングに提案したのです。

「私はどんなことがあっても反対するから! 『大変なのは分かっているけど、みんなの助けがなくても自分はやりたい』と言って始めたのはYさんだよね。Yさんが好きで勝手に始めたんだから、どうして私たちが手伝わなきゃいけないの?私は絶対に反対!」

ミーティング前日の夕方、エレベーター前でMさんにいきなり食って掛かられたYさんは戸惑います。
「私がSOSしたんじゃありません・・・」

「うん。それは知ってる。マネージャーに確認した。けど、私は絶対に反対!だいたいあなたね!」
物凄い剣幕で畳みかけてくるMさんに、Yさんは意を決して話の腰を折り言いました。

「すみません。私がSOSしたんじゃありません。それを今、ここでケンカ腰に言われても私も困ります。失礼します。」

そう言って、その場を立ち去ったYさん。
「そう・・・。」
いつもは言いたい放題のMさんですが、その場を立ち去ったYさんに勢いをそがれたのか、それ以上は何も言いませんでした。

「『関わらない』「相手にしない」『戦わない』という選択肢を言われたとおりにやってみました。今日はそれですみました。けれど、明日のミーティングが怖いです。場が荒れるのもイヤだし・・・。」

そう訴えたYさんに、私が伝えたことはたった一つです。

「Yさんをサポートしようというのは周囲からの声でYさんからの申し出ではない。そんな声が上がったことに心からの感謝を伝えて、あとは場に任せていいんじゃないかな。
Mさんに特に媚びる必要もないし、もちろん戦う必要もない。
同じチームの仲間だから、上手くやっていけるのが一番だけど、なかなか難しい人がいるのも現実だよね。
ただ、Mさんはいつも一生懸命で、Mさんなりに良かれと思って発信している。だよね?
そのMさんの良いところを見失わなければ、あとは場に任せる、預けるのでいいと思う。
結果がどっちに転んでもいいじゃない。
大切なのは、Yさんが提案してくれた人たちへの感謝と、Mさんの長所と、そして『決して戦わない』の3つを忘れなければ、ちゃんと落ち着くところに落ち着くと思うよ。」

とかく絡んでくる人というのは実に厄介です。
関わらないことがベストでしょうが、それが難しいのであれば、相手にしない、そして戦わないことです。
「暖簾に腕押し」というやつです。
最初はちょっとキツイかもしれませんが、この「暖簾」になってみることです。

その後、Yさんたちのミーティングはどうなったか。
冒頭はMさんの独演で、しかもそれがYさんへの個人攻撃のような内容だったため、いたたまれなかったYさん。
その場を逃げ出したい気持ちでいっぱいでしたが、決して戦わなかったそうです。
すると、いつもは「触らぬ神に祟りなし」的な態度のチームメンバーがMさんの発言をよそに、つまり、Mさんの発言に反論するのではなく、Yさんをサポートすることの自分たちとチームのメリットをたくさん列挙し、そうしない手はないという雰囲気に全体の流れを導き、Kマネージャーの提案をチームとして受け入れたそうです。
最後まで反対してMさんですが、他のメンバーが列挙した肯定的自由に反論する術がなく、「それは分かるけど、私は反対!だって、Yさんが好きで始めたんだから!」と最後まで言っていたとか。

こうなると論理的話し合いではなくMさんの感情的問題のなので、チームの誰もそこは取り扱わなかったとか。
それで良いのだと思います。

最終的にMさんの「突っかかり」がなくなる日が来ることが、チームとしてもYさんとしてもベストです。
しかし、なかなか道のりは遠いかも。
それでも、「戦わない」選択を取り続けることによって、いつの日かMさんに何らかの変化が見られるかもしれません。
少なくとも、Yさんの戦わない選択は、「触らぬ神に祟りなし」だった他のメンバーに一定の影響を与えたのですから。

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