マネジメント・リーダーシップ

上司の役割

自分よりも仕事ができない、知識が少ない人を上司として認めるだなんて到底できない!

こう訴えるKさんは、入社以来、今の部門でスキルを磨いてきたベテラン社員であり、誰もが認めるスペシャリストです。
そんなKさんは、秋の異動で新しく上司となったTさんの事を、自分の上司として認めることが我慢ならないというのです。
私もそんな風に考えて、上司を完全にバカにしたり無視したりした逆パワハラメンバー時代があったなぁ。
ほろ苦い過去を思い出しながらKさんの話を聴いていました。

「Kさんは上司にどんな役割を期待しているの?」
私の質問に面食らったようで、Kさんはキョトンとしています。
「Kさんくらいのスペシャリストだったら、上司に何かを教えてもらうとか、そういうのはないんじゃないの?社内を探したってKさんを上回る人は多分そんなにいなくて、どちらかというともう教える立場だよね。そんなKさんは、Tさんに何を期待する?」

私の質問がようやく理解できたようですが、Kさんは暫く考え込んだ末に、不満そうにこう言いました。
「何があるんですか?」

上司=仕事を教えてくれる人
そう考えてずっと社会人生活を続けてきたKさんには、どんな役割を期待すれば良いのか、全くイメージができないようでした。
そこで私は、会社という組織から離れ、Kさんが参加しているボランティアグループで考えてもらうことにしました。
グループリーダーの役割は、最初こそグループに新たに参加した人に色々と説明してくれますが、慣れてくるに従って役割は全く変わってきます。
現場の調整役だったり、必要な情報を仕入れてくれたり、くすぶる不満を聞いてくれたり、困りごとを確認して必要なサポートへの筋道を探してくれたり、直接的に何かをしてくれる場合もありますが、メンバーが動きやすいように陰になり日向になり、いくつもの様々な役割を担ってくれています。
リーダーは上に立ってあれこれ指示したり教えたりする人ではなく、チームが上手く物事を進められるように必要なコトを行っていく「役割」なのだということも思い出してもらいました。

「上司にそんなことを求めていいんですか?」
Kさんの質問に
「いけない理由、躊躇する理由は何ですか?」
と私は逆質問してみました。
「そういうのって、下請け的というか、縁の下の力持ちというか、目立ったことではないのでどうなのかな、と思って・・・」
「どうなのかなって?」
「誰でも出来そうなレベル低いことじゃないですか?」
「そう?上司は『役割』だから。結構難しいと思うけど。本気でやると。Kさん、簡単にできそう?」

再びの私の質問にまたしても考え込んだKさんですが、「前言撤回します」と言い、実はそれらはとても難しいし人間性も問われる事なのだと気がついたようでした。

「上司の役割だなんて考えたコトなかったです。けれども、自分にとって上司に何を期待するかと考えたら、確かにより高度なスキルはもう、外部へ行かないとダメなのは自分でも分かっていて、だとしたら、それ以外で何をしてほしいかと考えたら・・・
他部署との調整とか、他部署や関係各所からの情報収集とか、そういうのでしょうか。僕は人づきあいというか、そういうコミュニケーション、苦手なんで。」

そんな話をしながらKさんは次々とTさんへの期待、自分がお願いしたい上司の役割を口にし始めました。

かつて私は、公認会計士&税理士のいわゆる会計スペシャリストチームのマネージャーをしていたことがありました。
専門的内容はさっぱりわかりません。
鼻っからそこで勝負はできません。と言うか、メンバーと勝負しようと思うこと自体が間違いです。
着任最初の挨拶で私が会計スペシャリスト集団のメンバー達に言ったのはこんなことでした。
「私に仕事の直接的な内容を相談されても全く分かりません。しかし、皆さんが仕事をしやすいように環境を作る、営業部や他部署との連携を深くする、情報を取る、調整をする、話を聴く、トラブル対応のサポートをする、皆さんのキャリアアップのためのプランを一緒に考えるなどは任せてください。それぞれ、人によって私に求める役割、期待は異なるでしょう。それぞれで構いません。皆さんが自分で思う私の役割を教えてください。それらの役割を私は自分の役割として受け止め、このチームが最大のパフォーマンスを発揮できる状態にしていこうと思っています。」

上司の役割は一つではありません。
上司はそう自覚するべきですし、メンバーもそれを知っておいた方が良いでしょう。

その後、KさんはTさんと話し合い、「自分はTさんに何を求めているのか」を率直に伝え、Tさんも快くその役割と期待を受け止めてくれたとのことです。

あなたは上司に何を期待しますか?
あなたが上司の立場だった場合、あなたの役割は何ですか?

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