月に一度の和菓子教室は、茶道教室の社中有志が集まっているため、茶道での序列がそのまま引き継がれています。私は昨年は行ったばかりの新入りで、和菓子教室でも一番の下っ端です。
先日のお教室で、大先輩Aさんがお菓子作りの手順が間違っていることに気がつきました。鍋に入った水に粉寒天を振り入れてから火をつけるべきところ(水から入れないとダマになってしまうのです)、粉寒天を入れる前に鍋に火がついていたのです。Aさんは全く気がついている風もなく、他の皆さんもおしゃべりしながら楽しそうに自分の持ち場を担当しています。
狭いキッチン。「違ってます」と言ったら皆に聞こえてしまいます。Aさんはさばけてはいますが、何気ない一言がチクリと痛いのです。
どうしよう・・・・。でも言わないと出来上がりが失敗しちゃうかもしれないし・・・
「Aさん、粉寒天です。」私は粉寒天をAさんに手渡しするふりをして続けました。「あ!もうお鍋に入ってましたか?」
Aさんは一瞬、怪訝そうな表情をしたのですが、傍にいらした先生が「粉寒天は水からよ」とおっしゃい、ご自身の間違いに気がつかれました。
その後は問題なく3種類の和菓子を創り終え、団欒の時間になったのですが、今でも私はあの時、Aさんにどう伝えれば良かったのかと考えます。
あからさまに間違っていると言うと、先輩の立場がなくなる。
言わない(見て見ぬふり)という選択は、望む結果を得られない可能性があるため、あり得ない。
やんわり言って、気づいてもらえなければ元も子もない。
今回、たまたま傍に先生がいらして私のソワソワに気がつき助け船を出してくださったので大丈夫でした。でも、もし先生がいらっしゃらなかったら、鍋の水は沸騰しつつあり、私がもたもたしている間に粉寒天は煮えたぎる鍋の中に入ってしまったかもしれません。Aさんとの関係性を気にするあまり言いたいことを伝えられず、望む結果を手に入れられないのは本末転倒のように思います。
でも、ビジネス現場でこういうコト、実はよくあります。
先輩や上司のミスを面と向かって指摘するのは、特に相手が少しばかり面倒だと思われる場合、下の立場の者からすると本当に言いづらいものです。
「なんで言ってくれないのよ!」と後から文句を言われそうですが、言ったら言ったで絶対に何かしら言われるに違いない、と思い、本当の事を言えなかったりするのです。そのため望む結果も手に入らず、散々な思いをしたりして・・・
これは上司や先輩の間違いに限らず、組織の問題点を指摘するという点でも同じことが言えるのではないでしょうか。
「あなたはまだよく分かってないから・・・」「そんなこと言ってくる前に、もっと自分の仕事をちゃんとしてね」
そんな風に言われるのが嫌で、分かっていても組織の問題も具申しない。
いずれにしても、本来望む欲しい結果が手に入らず残念な結果しか残りません。
後輩や部下、チームメンバーが臆せず上司や先輩の間違いも発言することができる。それには、「気がついたら遠慮なく言うように!」と叱咤激励することではなく、自分に耳の痛い話や恥ずかしい話であってもしっかりと受け止める、受け入れるという先輩や上司のスタンスが大切に思います。
メンバーにとって、何を言っても大丈夫なんだという精神的安全、100%安全な場が担保できているかどうかということです。
和菓子教室で一番下っ端の気持ちを味わうことで、ビジネス現場ではもう長いこと忘れていた「部下の気持ち」を思い出すことができます。
私の間違いを臆せずどんどん言ってくることができる100%安全な場づくりに、今日も明日も明後日も、たゆまなく努力し続けます。