毎日ワンコのお散歩に立ち寄る公園では、朝夕、多くの清掃員さんが公園内のお掃除をしています。
公園内のドッグランの横に、ちょうど清掃道具等を置いてある倉庫があり、また、清掃員さん達が集合解散する場所にもなっているため、顔見知りの方達も複数いらっしゃいます。
1か月程前の事、清掃員のリーダーだったAさんが体調不良で入院してしまったということで、新たにBさんがリーダーになりました。
日曜の朝、いつものようにドッグランへ行くと、Bさんの周りに清掃員さん達がたくさん集まって何かを一生懸命訴えていました。みなさん、とても興奮した様子だったので、聞くともなしに聞こえてくる話に耳を傾けてみると、それはAさんに対しての不満でした。Bさんはそれに反論するでもなく、かと言って同調するでもなく、ただじっと話に耳を傾けていました。
公園の清掃に入る方たちは、その多くは定職を持たず、その日の生活費を何とかするために来ている方が多いようです。AさんやBさんはほぼ毎日いるので、公園事務所から正式に雇用されている人なのかもしれませんが、他の方達は「お金がもらえればそれでいい」という感じの方も多いように見受けられます。当然、「自分はただ掃除をしているのではない。公園にやってくる人たちの安らぎと笑顔を創るお手伝いをしているんだ」などと思っている人はおらず、ただ「作業」をしているという感じです。
「Bさんも大変だなぁ。Aさんの悪口聞かされて。」私はそんな風に思っていました。
Bさんがリーダーになって暫く経った頃、相変わらずBさんに何か話をしている人たちの数は減らないのですが、話している内容がAさんの悪口ではなくその方たちが話したいことを話しているのに気がつきました。Bさんはいつものように、ただ、うんうんと頷きながら聞いています。
しかし驚いたのは、清掃員の方達が掃除をしている時、以前よりも楽しそうに、心なしか前向きに「仕事」をしているように感じたのです。
ドッグランの周りも以前までは、落ち葉や枯れ木をおざなりに片づけていたにすぎなかったのが、ドッグラン内の清掃を利用者がしやすいように用具を整えてくれたり、困ったことはないかと私たちに声をかけてくれたり、明らかに掃除に対するスタンスが変わっているようでした。
とても不思議に思い、ドッグランまで新しいゴミ袋を持ってきてくれたCさんに声をかけてみました。
「皆さん、最近とっても楽しそうにお掃除なさっていますね。」
するとCさんが言ったのです。
「いやぁ、みんなBさんに色々話聞いてもらってさ。最初は愚痴ばっかりだったんだけど、それでも嫌な顔一つしないで俺らの話聞いてくれて。ありがたいよな。ガミガミ言うんじゃなくて、俺らの境遇とかわかってくれて、気持ちもわかってくれて。だから、Bさんの顔潰しちゃいけないと思って、みんな、結構真面目に掃除してんだよ。だって、Bさんに花持たせたいじゃない。」
僅か1か月かそこらの間で、どちらかと言うとやる気のない方達を前向きにしてしまったBさんに「あっぱれ!」と思いました。
人の話を聴くのは、楽しい話であればまだ良いのですが、そうでない話を一方的に聞かされるのは聞く方もストレスが溜まります。それでもBさんは、黙って話に耳を傾け、一人一人の清掃員さんの事情や考え方、気持ちを受け止め、それによって自然に、みんなをBさんのファンにしてしまったのです。そして、「Bさんのために、俺ら、ちゃんと仕事しよう」と言わしめたのです。これがあっぱれでなくて何でしょう。
Bさんは恥ずかしそうに言いました。
「みんな色々あるからさ。せめて、公園に来る時は、確かに掃除に来るんだけど、『楽しい』『嬉しい』と思えるような事があるといいと思って。私が話聞いてあげることで、みんなが公園に来たいと前向きに思ってくれたら、それだけでもありがたいと思って。」
「北風と太陽」の太陽さながらのBさんの言葉に、なんだか胸が熱くなりました。
仕事なんだから。確かにその通りです。ただ、その仕事の場を辛く苦しい場にするのか、心地良い場にするのかは、リーダーによるところがとても大きいです。
Bさんの控え目でありながらもしなやかなリーダーシップを目の当たりにして、人の話に耳を傾けることの大切さを改めて確認したのでした。