メンバーにチャレンジを促す時、
私はいつも「自転車の補助輪を外して乗れるようになる」トレーニングを考えます。
子どもは皆、最初は三輪車から始めます。
放っておいても自立した三輪車は、小さな子どもでもペダルを漕げば前へ進みます。
前へ進む、左右へ曲がる、ブレーキで止まるなど、
三輪車を自在に操れるようになった頃、
もう少し大きな自転車に乗りたいと思うようになります。
この時、いきなり二輪にチャレンジする子供は少数派でしょう。
最初は補助輪をつけて、三輪車とは違うバランス感覚に戸惑いながらも
補助輪がついているから転ばないんだと心に言い聞かせて
恐る恐るペダルを漕ぎだすのです。
いよいよ補助輪を外して二輪にチャレンジです。
二輪に一人でチャレンジできる子は、何度も何度も転びながら、
自分の感覚を頼りに気合と根性でチャレンジし続けます。
しかし、一人でチャレンジできる子どもばかりではありません。
後ろから誰かに支えてもらい、バランスを取ることを手伝いながら、
「手話さないでよ」「絶対に話しちゃだめだよ」
など、半ば悲鳴を上げながら前へ進みます。
「大丈夫大丈夫」「その調子」「もっと強く漕いで」「前を見て」
後ろから支えている大人たちは、抜群のペップトークで子供を応援します。
支えると言いながらいきなり手を放す人はまずいないでしょう。
そうして様子を見ながら、「そろそろいけるかな?」と判断した時、
そっと手を話し、ふらつきながらも一人で前へ進んでいく子供を、
安堵と誇らしさに交じった愛情たっぷりの気持ちで見送るのです。
補助輪を外しての練習中、全く転ばない人はいません。
たった一人でチャレンジしている勇敢な子供はもちろんのこと、
後ろで支えてくれる誰かがいる場合も転ぶことは避けられません。
しかし支える側も、転ぶことは織り込み済みです。
転ばずして乗れるようにならない事を分かっているからです。
この自転車に乗れるようになるまでのステップを
メンバー育成に当てはめれば良いのです。
① いきなりの大チャレンジではなく、
これまでの経験の延長線上のチャレンジを与える。
② いきなり放り出すのではなく、一緒にやる、支える、見守るなどのステップを踏む。
適切で効果的なフィードバックとアドバイスを欠かさない。
③ 失敗はつきもの。
失敗させないようにするのではなく、大事に至らない小さな失敗は歓迎し、
そこからの学びを次に活かせる関わりを行う。
メンバーがチャレンジをしない、又はチャレンジを止めてしまうのは、
1.チャレンジの内容がメンバーの力量に対して不適切である
2.リーダーのフォローが不適切である
のいずれかであることがほとんどです。
また大前提として、「自転車に乗りたい」と思わなければ、
三輪車から次のステップへ進みたいと思わないのと同様、
メンバー自身が次のステップへ進みたい、すなわちチャレンジしたい
と思う事が何より大切です。
それには、チャレンジが成功した先のメンバーにどんな良いことがあるのか、
それを具体的にイメージできることが必要です。
「課の予算が達成できる」「チームとして会社に存在感を示せる」
などと、メンバー個人をスルーした動機づけをしてはいけません。
「メンバー個人が良いと思う事」であることが大切です。
メンバーのチャレンジは、
メンバー自身の欲求プロフィールが関わることが大きいですが、
それにも増して、リーダーの関わり方によるところが多くあります。
人はいきなり自転車に乗れるようになりません。
三輪車、補助輪付き、二輪とステップを踏む過程でどのように関わるのが効果的か。
あなたのメンバーがチャレンジに前向きでいられるよう、
それは、リーダーであるあなたの関わり方に大きく依存している事を忘れてはいけません。