パーソナルコーチとランチを楽しんでいた時のことです。私は彼女のことが大好きなのですが、その日はとても違和感がありました。
恐らく、コーチはとてもストレス状態にあったのだと思います。彼女のお取引先の対応について好ましくない事があったようで、もう取引を止めると言うのです。更に、彼女のコーチングのクライアント、つまり私と同等の立場の人ですが、その一人についても良くない事があり、契約を修了したという話でした。
事の真実は別として、話を聞いていて私はとても苦しくなってしまいました。
彼女と私はコーチとクライアントの関係。コーチングの場合、二者はあくまでも対等な関係とされています。しかし、彼女は私が切望して契約に至ったコーチです。「コーチをしてもらっている」という感情が私には強くあり、気持ちのどこかで常に、私がコーチの顔色を見ている状態でした。それは職場におけるマネージャーとメンバーの関係に似ているかもしれません。マネージャーとメンバーも、あくまでも「役割」であり人間関係に上下はないとされていても、実際にはメンバーの側からしてみれば、マネージャーの言動にとても敏感になってしまうことは普通のことだからです。
コーチの話を聞いていて、コーチの感情の起伏の激しさや、何を言ったらアウトになるのかを思い知った気がしました。それと同時に、私はコーチに切られるような振る舞いをしていないだろうかと不安になってしまいました。
コーチとクライアントにおいては100%の安全安心が担保されていなければ何でも自由に話すことはできません。こんなこと言ったら馬鹿にされるかな。こんな話をしたら卑怯な身勝手な人間だと思われるかな。などという不安を抱かずに、みっともない自分、恥ずかしい自分も正直にさらけ出すことができるのがベストなコーチとクライアントの関係です。しかし残念ながら、コーチのネガティブ発言が私の心に大きくのしかかり、「何でも話せる関係」に疑問が生じてしまったのです。
しかし、私はコーチのお陰で改めて自分を振り返ることができました。
メンバーに対して、私が日常感じた愚痴、不平不満、言い訳、文句、怒りやイライラをそのまま伝えていないだろうか。メンバー本人のことのみならず、他のメンバーに対しての愚痴や不満、お客様やパートナー企業様への不満、先行きに対する不安などについてもそうです。
それらは直接的にメンバー本人に対してのものでなくても、言葉を変えてそのメンバーを不安にさせてしまう可能性があります。リーダーは決してネガティブな発言も振る舞いも、メンバーの前でしてはいけないと再度認識することができたのでした。(しかしリーダーも人間ですから、全く利害関係のない無関係の第三者に話を聞いてもらうなどするのが良いかもしれません。)
コーチには、私が感じた違和感を正直に伝えました。黙っている事も出来たのですが、そのままでは安心してコーチングを継続することは困難です。それを伝えて関係性が終るなら仕方がない、でもきっと大丈夫、と信じました。コーチは自分を見失っていたことを認め、不適切な発言だったと振り返り、お陰で私の中でのコーチとの関係性は元通りの安心安全なものに戻りました。
完璧な人間などいません。ですから、コーチとクライアントであっても互いに指摘できる関係性でありたいし、自分がコーチの場合にも、クライアントや他人からの指摘に素直に耳を傾け、改めるべきところは素直に改める、そんな素直さを持ちたいと思いました。
マネージャーとメンバーにおいても全く同様です。多くの場合、マネージャー自らが意識せずに安全安心な場づくりをダメにしてしまっていることが多いように思います。
ポジションが上がれば上がるほど、自分の影響力が他者に対して強くなればなるほど、「お口」と「態度」には本当に気をつけなければならないと、しみじみと思うのでした。