戦略人事

経営指標としての人事データ活用

多くの企業は人事データを蓄積していますが、活用の多くは、「離職率」「残業時間」「エンゲージメントスコア」などの現状把握に留まっています。
これでは、経営判断に資する情報とは言えません。

人事データが経営に資する「武器」となるためには、財務との接続が不可欠です。

例えば、以下のようなものが考えられます。

・離職率 × 採用・教育コスト = 人的資本の損失額
⇒ 離職がどれだけの財務的損失を生んでいるかを可視化。守りの指標。

・離職予測精度×離職防止施策の実行率=離職削減による利益改善額
⇒ 離職を防ぐことで、どれだけの利益改善を望めるか。攻めの指標。

・エンゲージメントスコア × 生産性 =人的資本ROI
⇒ 意欲と成果の関係性を財務で測る。攻めの指標。

・評価結果 × 報酬額 =報酬の妥当性指標
⇒ 高評価者に対する報酬が適正かを検証。人材投資の最適化。

このように、財務と結び付けることで、人事データは経営指標としての意味を持ちます。

具体例を見てみましょう。

離職率 × 採用・教育コスト = 人的資本の損失額
これは、「守りのROI*¹ 」の視点です。

そこに離職予測モデル*² を導入することで、損失を未然に防ぐだけではなく、予測に基づいた打ち手(対話・配置転換・育成強化など)を講じることで、人的資本の価値を最大化する=攻めのROI*³ に転じることができます。

*¹・*³ 守りのROI/攻めのROIについては、「人的資本ROIとは?見えない損失を『価値創造』に変える管理会計の視点」をご確認ください。
*² 離職予測モデルは、入社年数、評価履歴、エンゲージメント、残業時間などをもとに、離職リスクの高い人材を推測する。

【前提】
・社員数:1,000人
・年間離職率:10%(100人が離職)
・一人当たりの採用・教育コスト:300万円
・離職予測モデルの精度:80%

【離職率 × 採用・教育コスト = 人的資本の損失額】

100人(離職者)× 300万円(一人当たりのコスト) = 3 億円

この3億円は、現状で失われている人的資本の価値、つまり、守りのROIの対象となる損失額です。
(しかし、実際には、これ以上の見えない損失が発生します。詳しくは、『退職コスト、休職コストを可視化せよ!人的資本経営と管理会計の実践』をご確認ください。)

【離職予測精度×離職防止施策の実行率=離職削減による利益改善額】
次に、離職予測モデルについて考察します。
精度が80%の場合、離職する100人のうち、80人を事前に特定できます。
特定した80人に対して、離職防止の対策を講じます。
この対策によって、50%(40人)の離職を防ぐことができたとします。

40人(離職を防ぐことができた人数)×300万円(採用教育コスト)=1.2億円(削減できた損失額=利益貢献額)

この1.2億円は、攻めのROIとして、新たに生み出された価値です。
(実際には、より大きな価値を生み出すことができます。詳しくは『退職コスト、休職コストを可視化せよ!人的資本経営と管理会計の実践』をご確認ください。)

このように、人事施策が利益にどう貢献したかを定量的に示すことで、経営層の意思決定に直結する情報となります。

「この施策が成果に繋がったのか?」という問いに対して、実際には、厳密な因果関係を証明するのが難しい場合が殆どです。
しかし、相関関係をヒントに、意味のあるつながりを見つけることは可能です。

実務での工夫は以下のような形で行うのが現実的でしょう。
1.比較対象を作る:施策を実施したチームと未実施チームの成果を比較
2.時系列でみる:施策前後の数値の推移を追う
3.現場の声を活用する:数値だけでなく、マネージャーやメンバーの実感も定性データとして活用

これらの工夫により、「何が効いたのか」を現場レベルで把握し、次の打ち手につなげることができます。


人事データは、単なる記録ではなく、経営の未来を描くための言語です。
財務と接続し、経営指標として活用することで、組織の可能性を最大化できます。

人事の役割は、単にデータを収集して、その単一的な対策を行うことではありません。
データを翻訳し、経営の意思決定に橋を架けることです。
人事が経営の言語を話す時代は、既に始まっています。



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