「部下が何を考えているのか分からない」
「対話しても、どうも噛み合わない」
「自分の意図が伝わらない」
こうした悩みを抱える経営者や管理職の方は少なくありません。
経験も知識もあるのに、なぜ部下との関係がうまくいかないのか。
その原因は、スキル不足ではなく、認知の段階の違いにあるかもしれません。
私たちは、同じ言葉を使っていても、見えている世界が違えば、意味の受け取り方も異なります。
これは、単なるコミュニケーションの問題ではなく、人の意識構造そのものの違いに起因するものです。
成人発達理論が示す「器」と「レンズ」
成人発達理論とは、「知識やスキルを発動させる根幹部分の知性や意識そのものが、一生をかけて成長・発達を遂げるという考え方のもと、人の成長・発達のプロセスやそのメカニズムを解明する学問」のことです。(加藤洋平著『なぜ部下とうまくいかないのか』より)
この理論では、意識構造を「器」と「レンズ」の2つの要素で捉えます。
器とは「心の広さや柔軟性」のことであり、レンズとは「認知・モノの見方」を言います。
「あの人は器の大きな人だ」「あの人は器が小さい」などと言いますが、心の広さや柔軟性は、物事の受け取り方や捉え方に影響を与えます。
この器を大きく、広く、柔軟にするには、それなりの時間がかかり、経験や内省が必要となります。
一方、レンズ(認知)は、モノの見方のフレームを変えることで、異なる見方ができるようになり、他者からのフィードバックや対話によって、比較的早く、レンズをバージョンアップすることが可能です。
段階 | 特徴 | レンズ(認知の枠組み) |
段階2(依存的) | 他者の期待やルールの従う | 正解は外にある |
段階3(自己中心的) | 自分の価値観や信念を重視 | 自分が納得できるか |
段階4(相互的・システム的) | 多様な視点を統合し、関係性や全体最適を考える | 複数の視点を扱える |
段階5(変容的・統合的) | 自我を超え、価値観や枠組みそのものを問い直す。変化を受け入れ、創造的に統合する。 | 枠組みそのものを問い直す 変化や矛盾を統合できる |
部下との対話が噛み合わない時、私たちは「伝え方」を工夫しようとします。
もちろんそれも重要ですが、もっと根本的な視点があります。
それは、部下の認知の枠組み(レンズ)を見極め、それに応じた関わり方をすること。
さらに、その枠組みを広げるサポートをするように関わることです。
以下に、部下の段階と上司の段階の違いによる、関わり方を示します。
①部下:段階2(依存的) × 上司:段階3(自己中心的)
- 上司は「自分の考えが正しい」と思いがちで、部下に自分の価値観を押しつける傾向がある。
- 部下は「言われた通りにやる」ことに安心感を持つが、上司の指示が一貫しない・説明がないと混乱する。
- 結果:指示は通るが、部下の主体性は育たない。上司の自己中心性が関係性を狭める。
②部下:段階2(依存的) × 上司:段階4(相互的)
- 上司は部下の依存的な傾向を理解し、安心感を与えながら徐々に自律性を育てる関わりができる。
- 「なぜそれをやるのか」「どう考えればいいか」を丁寧に伝え、部下の認知の成長を促す。
- 結果:部下の発達を支援するマネジメントが可能。信頼関係が育ち、成長につながる。
③部下:段階3(自己中心的) × 上司:段階3(自己中心的)
- 両者とも「自分が正しい」と思っているため、対話が衝突しやすい。
- 上司は部下の反発に「理解できない」「扱いづらい」と感じ、関係が悪化することも。
- 結果:対話が噛み合わず、摩擦が生じやすい。部下の成長は停滞する。
④部下:段階3(自己中心的) × 上司:段階4(相互的)
- 上司は部下の価値観を尊重しつつ、視野を広げる問いかけやフィードバックを行う。
- 「あなたの考えは分かる。では、他の人はどう感じると思う?」など、メタ認知を促す関わりができる。
- 結果:部下の視点が広がり、段階4への発達が促される。対話が深まり、信頼が強まる。
部下の段階別、マネジメントの留意点は以下のとおりです。
段階2(依存的):安心感と明確な指示が必要。自律性を急に求めると不安を生む。
段階3(自己中心的):対話を通じて納得感を得ることが重要。衝突も起こりやすい。
段階4(相互的・システム的):部下の発達段階に応じた関わりが可能。信頼と成長支援が両立できる。
段階5(変容的・統合的):組織変革や文化づくりに強い。個人の成長だけでなく、構造的変容を促す。
ここまで読んでお気づきの通り、上司の段階が部下の段階より低い場合、それは、器の柔軟性や認知の枠組みが狭く偏っているということであり、自分より段階が上の部下をマネジメントすることは困難です。
だからこそ、上司は自分の段階を知り、上げる努力をする必要があります。
また、部下の段階を上げるサポートをすることで、チーム全体の柔軟性や創造性が高まり、変化の激しい時代においても持続的成長をなすことができる組織作りを行うことが可能となります。
コーチング現場での実例
私が関わったあるマネージャーは、部下との関係に悩んでいました。
指示を出しても動かない、フィードバックしても反発される。
しかし、部下の依存傾向や自分の考えで行動することを躊躇するのは、怠けや臆病であることよりも、段階2の傾向が強く表れていることを認識し、「この部下には、まず安心感と承認が必要だ」と気づくことができました。
その後、マネージャーは関わり方を「正論で指導する」ことから、「部下の意見を最後まで聞き、小さな成功を具体的に承認する」関わりへと変えました。
結果、部下は自発的に動き始め、チームの雰囲気も大きく変わりました。
この変化は、マネージャー自身が器とレンズを広げただけでなく、部下の器とレンズの状態を理解したからこそ起きたものです。
リーダーとしての「成長し続ける意思」が組織を変える
リーダーに求められるのは、スキルだけではありません。
1.自分自身の器とレンズを広げること。
2.部下の認知の段階を見極める力を持ち、その発達のサポートができること。
この2つが揃ったとき、マネジメントは単なる指示・管理ではなく、人の可能性を引き出す営みへと変わります。
さらに、「成長できている」という実感を、部下も上司も双方が持てるようになります。
あなた自身、今、どの段階にいるのでしょうか?
まずは、自分自身の発達段階を意識することから始めてみませんか?
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