「社員の話を聞かなきゃいけないと頭では分かっているんだけど、何言いたいかわかるし、判断間違えてたりするとカチンとくるし、途中で遮ったり説教したり、どうしてもしてしまうんです。」
経営者のAさんからこんなご相談をいただきました。
わかるわかる、とってもよくわかる!
だって、以前の私はそのまんまでしたから。
「こうなってほしいとか、これしてほしいとか、やっぱり相手を変えたいじゃないですか。こっちの思った通りに動いてくれないと、経営できないですよね。」
おぉぉぉ。出た出た本音。
嬉しくなって聞いていました。
「特に、家庭ではもっと酷くてなって、女房とか、子供とか、自分の思い通りにしたいんですよね。」
ここまで話を黙って聞いていた私ですが、Aさんにたった一言だけ言いました。
「他人は無理やりには変えられないですよ。」
「え?だってそれじゃあ、経営とかできないし、子供しつけとかもできないじゃないですか!」
「Aさんは、かつてご自分の上司の全て言うとおりになさいましたか?ご両親の言うとおりに全て従いましたか?」
「いや、従ったこともあるし、そうでないことも・・・」
「そうですよね。従ったこともあるしそうでないこともある。決めるのは相手。行動の決定権は相手にある。こちらにはないんです。だから、相手を思い通りにコントロールしようと思っても無理なんです。かえってストレスが溜まるだけ。できるのは、相手が決定のためにより良い選択ができるよう、そのお手伝いをすること。より良い影響を与えてあげることだけなんです。」
「・・・・・。理屈はわかりますけど・・・・。」
「そう。理屈はそうなんです。相手をコントロールしたいという気持ちを手放してみてください。」
「それって、諦めろということ?」
「そうじゃないですよ。諦めるんじゃない。
決定権は相手にあるとこちらの頭にしっかりインプットするんです。
大好きな女性に自分を好きになってもらいたくて、自分を選んでほしくて、あれやこれや工夫はしても、力づくで『好きになれ!』とはしないですよね。
それは、『選ぶのは相手』だと分かっているからですよね。
全く同じです。
決定権は相手にある。それを忘れてしまってコントロールしようとしても、徒労に終わるかストレス満載になるだけです。
なかなか手放すのは難しいかもしれないけれども、きっと大丈夫!
だって、この私が手放せたんですもの。
大丈夫ですよ!」
Aさんはすっかりしょぼんとしてしまって、しかし次のように続けました。
「コントロールを手放したら、相手の話を聞けるようになる?」
「う~ん・・・。それはYESでもあるしNoでもありますね
コントロールしたいから話を遮る、自分の意見を押し付ける、というのはあります。
しかしそれとは別に、相手の話の先が読めて、反対意見でなくても相手の話を取ってしまって自分が話してしまうとか、そういう方もいらっしゃいます。」
「応急処置的に、聞けるようにならないかなぁ・・・」
「話の中身を聞こうとするのではなく、話をしている人そのものに関心を向けてみてはどうですか。
〇〇について話している。つまんないなぁ、ではなく。
今、どんな気持ちなんだろう。
へぇ~。こんなことに関心持ってるんだ。
こういう価値観なんだな。
面白い考え方するなぁ。
こんな具合に、相手に興味関心を向けると、『知っている』と思っている人でも次々に発見があって、話は聞けると思いますよ。
私の父は、だいぶ痴呆が入ってきたので同じことを何度も繰り返し言ったりするのですが、『さっきも聞いたよ』と言ってしまうのではなく、その時々の父の表情、言葉のトーンなどに関心を向け、『今はどんな気持ちで話してるのかな』とか、『さっきよりも楽しそうに話してるけど、今は体調いいのかな』とか、そんな風に聞いているので、同じ話でも苦痛はほとんどありません。
一回、試してみてはどうでしょう?」
「そっか。それならできるかもしれない。」
「できなくてもいいんですよ。最初っから上手くいく方が珍しいんだから。
大切なのは、そうしようと努力していること。
出来てないな、遮っちゃった、ちょっとは聞けた、など、自分で『気づく』ことです。
それが人としての成長ですよね。
だって、そうしたことに気づいて、今、変えようとトライしているだけでも凄くないですか?
そんなことに気づかずに一生を終わる人だって山ほどいる。
そんな中、ちゃんと聞こう、相手に関心を持とうと努力、挑戦している。
それだけでも成長への山をしっかりと登ろうとしているということ。
それだけで拍手喝采です!」
「そう言われたら、なんか気が楽になってきた。
早速、社員自身に興味を持って話を聞くの、やってみますよ。」
暗~いトーンで始まったAさんとの話も、最後は笑顔で終えることができました。
話の内容に興味を持とうとするのではなく、相手自身に興味関心を持つ。
相手を無理やり変えようとするのではなく、決定権は相手にあることを自分の脳にしっかりとインプットする。
社員、部下という枠にとどまらず、人と人との関係づくりにおいてとても大切なことです。
どうぞお忘れないように♪