誰だって変わることができる

マネジメント大失敗が招いた人生の転機

「尾藤さんが入社してくれたことは、宝くじが当たったようで、本当に感謝しています。」

当時勤めていた会社の社長は年賀状にこのようなコメントをくれ、本当に嬉しく、また、やる気に感じたものです。
15人ほどの小さな会社の営業コンサルティングの部長として転職しましたが、マネージャー職は私だけで、その上は社長でした。
若手が多かったメンバーのマネジメンと営業力アップに加え、社長をサポートすることが私のミッションでした。
私を高く評価してくれた社長のお役に何とか立ちたい。社長の思いを高い成果として残したい。
常にそう強く思っていました。

ところが私はどこで間違えたのか、勘違いしてしまったのか、若手が多かったからなのか、いえ、すべては自分の中の問題なのですが、「メンバーの声をしっかりと聴いて社長の思いをみんなに届ける」という本来の私の役割が、「社長の思いをみんなに押し付ける」になってしまっていました。

社長の思いをなかなか理解でないメンバーを、社長の命により何人か退職勧奨しました。
以前同じ職場で働いていた後輩が転職してきてくれて、しかし、上手くいかずに体調を壊して退職してしまいました。
大手代理店のトップ営業だったと鳴り物入りで転職してきたマネージャーが、自信を喪失してわずか1か月で退職してしまいました。
退職勧奨されたメンバーも、自ら退職していったメンバーも、上手くいかなかった要因の多くをきっと私が占めていたに違いありませんが、当時の私には全くと言っていいほどにその自覚はありませんでした。

それでも、少しずつ、少しずつ、「違和感」を感じ始めました。
それは、古くからのお客様から「退職者が多いですね」と言われた時です。
「彼らは皆、ステップアップのための退職なんです。うちは自社の社員でも会社を踏み台にしてより成長してくれれば良いと考えています。」
苦し紛れにそんなことを言いましたが、「退職者が多い」と告げられたことは私の心に大きな影を落としました。

その頃から私は考えるようになりました。
自分は間違っている。
もっとみんなの声をちゃんと聞かなければいけない。
もしかしたら社長の考えだって全てが正しいとは限らない。
社長にもみんなのことをもっとわかってもらわなければ。
私は社長よりになるのではなく、公平なスタンスでいるべきなんだ。
皆が辞めたのは私のせいだ。
私は間違っていた。正さなければ・・・・。

こんな風に思い出した途端、それまで密だった社長とのコミュニケーションがだんだんと億劫になってきて、疎遠と言えるまでに希薄になってきました。
もっとうまくできなかったのかと、今となっては思うのですが、当時は、どうにもできませんでした。

皆の本音を聞きたい。
社長に対する本音。私に対する本音。みんなの不満。みんなの心の声を聞きたい。
そう思った私は、半日かけてメンバー全員と車座になってミーティングを行いました。
何でも好きなこと言っていいよ。
会社を普通の状態に起動修正したい。
だから、私に対してのネガティブなことも、会社に対してのネガティブなことも、遠慮せずに言ってほしい。

最初、疑心暗鬼だったみんなも、だんだんと歯に衣着せずに本音を語ってくれました。
私に対する恐怖。
反対したら辞めさせられるという恐れ。
他にもたくさんたくさん、それは山ほど出てきました。

このミーティングの真の目的は、社長には伝えませんでした。
伝えると、「尾藤さん、頭おかしくなってきたんですか?」と反対されると思ったからです。

このミーティングで私はみんなにある重大な事実を伝えました。
それは、新規のお客様から頂いたオファーで、大きなお取引になる可能性が大だった案件を、社長には相談せずに私の一存でお断りしたことです。
当時いた会社の力量では、お客様が満足する結果を到底出せないことは火を見るよりも明らかでした。
しかし、社長は引き受ける気でいたようです。
満足な結果をお約束できないのにお引き受けするのは背信行為だと私は思い、勝手にお断りしたのでした。
もっと、社長ととことん話し合えば良かったのですが、そうすることが既に面倒になってきており、向かい合うことが苦痛にさえなってきていたのです。

私自身、これまでのことをとても恥じているし、後悔もしているし、最近の社長に疑問を感じている・・・。
そんな私の思いをみんなに告げました。

このミーティングの数日後、社長から「話がある」と言われました。
そこで告げられた最初の第一声は
「会社を潰す気ですか?」
でした。
それは、新規お取引の事をさしての事でした。
私は私の考えを告げましたが、やはり理解してはいただけませんでした。
営業成績が苦戦しているその年、その売り上げがあるかないかは雲泥の差であり、PLBS等全てを把握している私であれば、そんなこと、わからないわけがないと詰め寄られました。
「工夫すれば良い方法が考えられたかもしれないのに、相談もなく断るだなんてあり得ない。」
そして次に言われたのです。
「もう信用できない。信頼できない人と一緒に仕事はできません。」
心の奥底から絞り出したような声でした。
社長自身、おそらく苦しまれたのだと思います。
「この前のあのミーティングは何ですか?僕への反乱ですか?僕への不満をみんなから聞いて嬉しかったですか?僕はこれまで、みんなが尾藤さんの事を悪く言っても、必死で庇ってきました。僕は裏切られた思いでいっぱいです。」
こう言った社長の顔は、私に対する憎しみで満ちていました。
「それは、辞めろということですか?」
私の問いに、たった一言、
「そうです。」
と答えが返ってきました。

しかし、私が一番辛かったのは退職後の事です。
あろうことか、私に対するネガティブキャンペーンが行われたのです。
その事実は、私が一番信頼して仲良くしていただいたお客様から教えていただきました。
「名誉棄損で訴えた方が良いよ。あの言い方はひどいよ。人格傷害で自分たちは被害者だって、色々なところに言ってるみたいよ。私やうちの会社はみんな証言するから、訴えた方がいいよ。」

メンバーとのミーティングの時に私が告げた新規お客様のオファーをお断りしたコトを、「まだ社長には言ってないけれども私が自分の口で言うので、みんなは黙っておいてね。順番が逆転しちゃったけど。」とメンバーには告げましたが、その晩、社長に伝えたメンバーがいました。
彼or彼女から私は嫌われていて、または恨まれていたのでしょう。
「仕返しのチャンス!」とばかりにその日のミーティングの中身をメンバーがすっかり社長に伝えていました。
その伝え方がどうだったかはわかりませんが、社長の当時の言葉から想定して、私に対する悪意を持って伝えられていたように思いました。

多くのメンバーを退職勧奨してきた私でしたが、ついには社長から解雇を告げられました。
しかも、そこから退職日に至るまでの日々は地獄で、その後もネガティブキャンペーンが行われるなど、病気にならなかったのが不思議なくらいです。

私がどんなに剛腕だったか。メンバーをどれだけ苦しめたのか。
その一つ一つを詳細に告げなくても、この一連の出来事を見れば、全ては私のブラックマネジメントが成した結果なのだと、その過去の自分を恥じるしかありません。
どれもこれも、これまでの報いが自分に返ってきたのだと思っています。
投げた矢は必ず返ってくる。
まさに因果応報、善因善果 悪因悪果です。
社長に告げ口をしたメンバーを恨むでもなく、社長を恨むでもなく、恨むべくは、恥ずべくは、過去の自分です。

けれども、今となってはこれらも良き経験です。
苦しめる方も、苦しめられた方もどちらも経験することで、人の気持ちがより理解できるようになりました。
それよりも何よりも、この退職を通じて真に自分自身を見つめなおし、「今度こそ本気で変わろう」と心に誓ったのです。
もちろん、それまでも「変わろう」とはしていましたが、どこか歪んでいたように思います。

もし、あの時何もなく、あのまま今も会社にい続けたなら、変わろうとしながらも何となく自分をごまかし続け、本当に罪深く恐ろしい最強ブラックマネージャーに一層進化していたかもしれません。
それを考えると、あの時、辞めさせられて本当に良かったと今では心から思えるのです。

「解雇だと尾藤さんの経歴に傷がつくので、自己都合退職でいいですか?」
そう言ってくれた社長に対して、
「解雇で結構です」
と私はキッパリと言いました。
敢えてそうすることで、決して目をそらさずに自分自身と向き合っていこうと、その時、心に誓ったからです。

善因善果 悪因悪果
マネジメントにおいても言えることです。

今、あなたはどんなマネージャーですか?
もし、自分のマネジメントに対して少しでも違和感を感じているのなら、モヤモヤや???を感じているのなら、それは「今を変えろ」というサインです。
変えることによって、一時的に好ましくない出来事があるかもしれません。
例えば私のように・・・
しかし、その違和感やモヤモヤを感じていながら今の状態を続ける方が、もっと罪深く、悪因を積み重ねることになるのです。

私が辞めてほしいと告げられたのは40代半ばを過ぎていました。
そこからでも人はその気になれば変わることができるのです。

私の過去のちょっと情けない話が何かのお役に立てるなら幸いです。

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