社会人一年目で法人営業チームに配属された時に先輩から言われた言葉は
「お客様とお友達になってこい」
でした。
まだ知識も経験もないヒヨッコができることなどしれている。知ったかぶりをしないで仲良くなっておいでとの事でした。
当時の私に、「お客様とお友達になる」という表現はとてもフィットしましたし分かりやすく受け止めやすいものでした。
その後、後輩の新人が配属されたり、他部門から営業に挑戦するという人には、この「お客様とお友達に」の表現を私は使ってきました。
ところがある時、内勤から営業に転身した中堅社員のMさんに言われました。
「お友達になる方が私には遥かにハードルが高いのですが・・・」
私にはMさんが言っている意味が分かりませんでした。
何故お友達になるのが難しいの???
恐らくおかしな顔をしていたのでしょう。Mさんが続けました。
「お客様とお友達って・・・。どうしたらお友達になれるのですか?」
想定外の質問だったため、私は面食らってしまいました。
友達になるのにどうしたらと言われても・・・
すると、他のメンバーも続けました。
「Mさんの言うこと、私もわかります。私も尾藤さんは簡単に『お客様とお友達に』と言うけど、それができたら苦労しないとずっと思っていました。」
ガーン。何か金槌で頭を軽く叩かれたような気持でした。
つまり、通じていなかった・・・。
そこで、右脳優位で感覚的な表現が多い私ですが、必死に言葉を駆使してMさんやメンバーに説明をしました。
「お友達になるというのはつまり、仕事の関係ではなく、人と人とのつながりを持つ、信頼関係を築くということ。だから、いきなりサービスの話とかするのではなく、いや、最初は全くする必要はなくって。お客様のことを知って、趣味とか、仕事のこととか、家族のこととか。」
「そんなプライベートの話、聞くんですか?」
「え?」
「それ、めちゃくちゃハードル高いです。」
「え? あ、そうか・・・。こちらから土足で相手に踏み込むんではなくて、まずは、お客様が興味関心あることにこちらが関心を示して、そこから話を始めると良いかも。
昨日のスケートの羽生選手がすごかったとお客様が仰れば、スケートの話に振るとか。食べ物のお話だったらそのお話とか。こちらの話をペラペラするんじゃなくて、お客様がしたいお話、お客様の興味関心に一生懸命耳を傾けて心を寄り添わせる。」
「お話してくださらなかったら? というか、そういう場合の方が多いと思うんですけど・・・」
「え? お話してくださらない? えとねぇ・・・
いきなり『趣味は何ですか?』とかじゃなくて、好きな女の子(又は男の子)と仲良くなりたくて、相手の興味関心を探っていく感じかなぁ。k
『今年はなかなか木枯らし一号が吹きませんね』から始まってもいいんだよ。天気の話はするな、とか言うけど、しても良いと私は思う。
『はや12月ですね。今年は例年になく1年が早く感じました。』とか。
相手がどう反応するかわからない。反応があったらそこから相手の関心に沿わせて話を続ければ良いし、空振りだったら他の話題にするとか。そんな感じかなぁ。説明、下手でごめん・・・」
こんな感じで、必死で説明したところ、Mさんは少し明るい表情に変わり
「つまり、お友達になるというのは、相手から信頼を得るために、いきなり押し売りのように仕事の話をしてサービスを押し付けるのではなくて、関係性を築くための導入アプローチをしっかりとするということですよね?」
「そうそう!そういうこと!!」
Mさんの物分かりの良さに救われた私です。
営業に関わらず、仕事に関わらず、すべては人と人とのつながり。
それを「お友達」という表現で語っていた私ですが、人にはそれぞれイメージする世界や理解の尺度が違います。
どんな言葉を使うのかはとても大切。
そして理解を確認することはもっと大切。
「わからない」と勇気を出して言ってくれたMさんに感謝したことは言うまでもありません。