「もう30年近く負け癖がついてしまっているので・・・ 良い時を知っているのは部長くらいで、それ以下はずっと沈んだ状態しか知らないんです。」
先日、ある大手企業のAマネージャーがポツリとつぶやきました。400人ほどのチームを何とか元気にしたいと奮闘なさっているのですが、Aさん自身もチームが元気だったのを見たことがなく、どうしたものかと思い悩んでいました。
負け癖、さぼり癖など、よくない癖というのは、一度ついてしまったらなかなかそこから抜け出すのは困難なものです。憎たらしい脂肪が体にこびりついてしまったらなかなか落ちないように、または、油汚れも柔らかいうちならすぐ落ちますが、汚れを溜め込んでしまうと元の状態にするのは至難の業だったり。常態化してしまったネガティブからの脱出は本当に難しいのです。
Aさんは悲しそうにつぶやくのでした。「あーあ、もう無理なのかな。うちの部門が元気になるのは・・・。」
Aさんも、ネガティブ状態にしっかりと浸かってしまい、抜け出せなくて苦しんでいました。
「AさんはかつてはZ社のY社長のもとでお仕事されていたのですよね?Y社長は厳しい方で有名ですが、その時はどうだったのですか?」と質問してみました。
「それはもう毎日大変でしたよ。Y社長は売上目標達成に対してとても厳しい方でしたから。でも、あの頃は毎日楽しかったな。仕事が好きだったし、売上上げるための工夫を絶えず考えていた。休みの日にデパートへ行って、面白いディスプレイを見ると、『あ!こういうやり方、うちにも活かせる。』と思ったり、どうやったらお客さんに喜んでもらえるか仲間と時間も忘れて話し合ったり。忙しさは今とは比べ物にならないほど大変だったけど、苦痛とか思わなかった。楽しかったですよ。」
ここまで言って、Aマネージャーはポツリと言いました。
「毎日毎日本当に忙しくて、だから、今の会社はこんな沈滞ムードなんだと思い込んでいましたが、Z社の時の方が何倍も忙しかった。でも楽しかった。忙しさが原因じゃないんだ。」
「残念ながら今は負け癖がついてしまっていますが、今のチームとZ社では何が違いますか?」
「何から何まで違いますよ!」
そう言うと、Aさんは解決への一筋の光が見えたようで、自分にできることはこんなこと、あんなことと、それまでとは違ってイキイキと話始めました。
AマネージャがZ社の時のことを思い出せて良かったです。悪いムードに浸ってしまうと、他へ視界が向かなくなってしまいますが、前職の経験であれ、学生時代やスポーツなどの経験であれ、またはダイエットや趣味などの経験であれ、『良かった時』『勝っている時』はどんな状態だったかを思い出し、そこから今との違いを詳細に検証していくと、そこにヒントがあるかもしれません。
優勝とは無縁だったプロ野球選手が、優勝チームの選手たちが本当に幸せそうにビールかけをしているのを見て、「自分たちも絶対にあれをやるんだ!」と心に誓い、常勝軍団へと進化を遂げた話も聞いたりします。
メンバーに「勝った経験」がないのであれば、リーダーが「勝つことの素晴らしさ」を何らかの形でメンバーに見せてあげる、経験させてあげる、そして、その素晴らしさを自分たちも味わいたいと思わせてあげる、そんなフォローも大切なのだと思います。
負け癖から抜け出すには、まず、視点を輝かしい未来へ向けるところから始まるのかもしれません。