管理職を目指さない部下への向き合い方｜経営層が理解すべき本質とは

管理職になりたくない若者が増えている。

責任を負いたくない。
ワークライフバランスを保ちたい。
プレイヤーとして専門性を磨きたい。

理由は様々だ。

こうした状況に対して、「最近の若者は向上心がない」「昇格を目指さないなんておかしい」と嘆く管理職や経営者は少なくない。
しかし、本当におかしいのは誰なのだろうか。

「昇格を目指すのは当然だ」「給与が上がった方が良いに決まっている」
これは、「上司の前提」であって、部下も同じ前提とは限らない。
本来、価値観は人それぞれである。

仕事に何を求めるのか。
人生で何を大切にするのか。
それは一人ひとり異なっていて当然だ。
にもかかわらず、昇格を目指すべきと「当然」のように言うのは、それ自体が、「上司の価値観」の押し付けではないだろうか。

高度経済成長期のように、やればやるだけ給与が上がり、生活が豊かになった時代ならまだしも、今は違う。
「上を目指せば幸せになれる」という単純な図式は、もはや多くの人にとって説得力を持たない。

本来、「管理職になる」は「手段」であって、「ゴール」ではない。
仕事も役職も、手段に過ぎない。
さらに言うならば、役職は単なる「役割」でしかない。

本当に考えるべきことは、仕事を通して
「何をしたいか」「どうありたいか」「どんなコトを手に入れたいか」
ということ。
これこそが、目的であり、ゴールである。

はたして、昇進昇格が目的化した組織に、「やりがい」は生まれるのだろうか？
手段が目的化した状態で、一人ひとりの働く意義や意味は、どの様に成立するのだろうか？

私が好きだったドラマ『踊る大捜査線』に、こんな会話があった。

室井管理官：「俺は『上』へ行く。警察組織を改革するためには、『上』へ行くことが必要だ。」
青島巡査部長：「僕は、現場から変えていきます。室井さんは上から、僕は現場から。目指す目的は同じだけど、やり方は違いますね。」

どちらが正しいか?
答えは、「どちらも正しい」だ。

二人とも、「目的」から行動が生まれている。
上を目指す、目指さないは、「目的との整合性」で決まるのだ。

「最近の若者は管理職になりたがらない」と嘆くことは、全く意味がない。

仕事への価値観は何なのか。
何を望んでいるのか。
管理職になることは、その人の目的（ゴール）をかなえることなのか。

これらを知らないままの議論では、何もはじまらない。

対話をすることで、本人が「昇格した方が目的に近づく」と気づくこともある。
あるいは逆に、上司の側が「この人にとって昇格は必要ないのだ」と理解することもあるだろう。

個人の価値観を理解すること。
それが、すべての出発点である。

昇格を目指す、目指さない。
それは「良し悪し」の問題ではない。

経営者・管理職が向き合うべきは、昇進昇格ではなく、「その人にとっての意味」である。