「つい命令口調になっちゃうんだよね・・・」
最近パフォーマンスが上がらないベテランメンバーMさんにどう向き合っていいのか悩んでいるマネージャーのKさんがつぶやきました。
Mさんはやる気がないわけではないようですが、Kさんがリクエストする「必要なこと」に対して「返事はするけど取り組まない」というのです。
何度もリクエストするKさん。そして何度目かにはこう言ってしまうのだそうです。
「何度も同じことばかり言ってすみません。Mさんも何度も同じことを言われて嫌ですよね。僕も言うの嫌なんです。けど、やってくれないと困るんです。お願いします。」
Kさんは普段からとても穏やかで、他部署の若手メンバーが相談にやってくるような方ですから、おそらくキツイ口調ではないのでしょう。
「Mさんが取り組んでくれない原因は何だと思っているんですか?」
「さあ・・・・」
「Kさん自身が命令口調になっていることが気になっているんですか?」
「だって、年下の僕に命令口調で言われたら、Mさんだって嫌だと思うんです。」
「なるほどね。けど、穏やかに言っているんですよね?」
「う~ん・・・。だから、口調というかトーンじゃないんだと思うんです。」
「なるほど。では、何なんでしょう?」
「言い方・・・?」
「どんな?」
「だから、命令っぽいというか。『〇〇やってください』みたいな。」
「Kさんはそう言われたら嫌ですか?Mさんはどうでしょう?」
「・・・・。違うなぁ・・・・」
「他に何か考えられそうですか?」
「・・・・」
「Kさんが答えてくれないと、困るんですよね。」
「そう言われても・・・ え?」
「何か?」
「それだ!」
「何ですか?」
「だから、『困るんですよね』ってやつ。Mさんにとってマイナスではなく、『僕が困るからやれ』みたいな言い方、感じ悪いですよね。『私は別に困りませんよ‼』とお腹の中では思うかもしれない。それだ・・・」
「なるほど。『僕が困るからやってよ』みたいな言われ方は確かにイヤかもしれないですね。『私には関係ないわ』って。」
「けど、本当に僕、困っているんです。だから本音なんですよね。」
「そうなんですね。何が困るんですか?」
「Mさんの成績が伸びないとチーム全体の足を引っ張るし、みんなの士気にも影響するし、Mさん自身にはもっと頑張ってほしいと本当に思っているし。」
「Kさんのマネージャーとしての評価にも影響する?」
「はい・・・」
「そうですよね。いえ、もっともです。けど、Mさんが『知らんわ!』と思うのではなく、『やった方が自分のためになるな。メリットになるな』と思うのは、どんな言い方でしょうか?」
「メリットですか?」
「そう。『やった方が自分にとって良い!得!やらなきゃ!やろう!』と思うコトです。Mさんが何に価値を見出しているのか、それによって『メリット』は変わってきますよね。1番になることが誰ものメリットではないんです。それぞれ、価値観、大切にしている考え方、嬉しい事、喜びに思うことは違うので。もちろん逆も真なり。嫌だと感じることも人によって違います。だから、これまでと同じ言い方をしても、特に何も感じない人もいるでしょうしね。」
こんな風に会話を進めた後、KさんはMさんの「価値観」「大切にしている考え方」「喜びに思うこと」をランダムに紙に書き出し、「Kさんがやってほしい事をMさんがやりたい!」と思うには、Mさんの動機の源泉として得られる結果をどう結び付けて説明するのが良いかを一生懸命考えました。
Kさんなりの答えがまとまったところで、Kさんが言いました。
「肝は、『僕が困る』のところですよね。なんか、自分本位だったなと反省しています。Mさんの事を思っているつもりだったけど、そう言った物言いに自然と本音が漏れ出ていて、それがMさんに伝わっていたんでしょうね。自分ではそんなつもりは全くなかったんですけど、今回の事で、自分で気づいていなかった心の奥が分かった気がします。恥ずかしいけど、良かったです。上手く説明するというよりも、『僕のため』ではなく『Mさんにとって』という視点を忘れずに話してみます。」
翌日、KさんはすぐにMさんとミーティングを持ちました。
Mさんの反応はいつもと同じ「わかりました」でしたが、いつもと違ったのは、ちゃんと取り組んでくれたことだそうです。
どんなに丁寧に穏やかに笑顔で話をしていたとしても、ちょっとした物言いや言葉の選び方で、こちら側の本音は透けて見えるものです。
「おかしいなぁ・・・。伝わらないなぁ・・・」
と感じた時、相手を責めるのではなく、自分自身をしっかりと振り返ってみることが大切なのかもしれません。