「職場は真剣勝負の場なんだから、そこでふざけているなんて許さない!休憩室とかそういうところなら問題ないけどね。」
笑いながらもピシッとした口調でそう言ったTさんは、怖いと評判のデキるマネージャーです。
Tさんの同僚のKさんは苦笑いしながらこう言いました。
「いえ、Tさん悪い人じゃないんですけどね、合わない人が多くって。すごく仕事がデキて、完璧にこなしちゃうんだよね。それは素晴らしい事なんだけど、それを他人にも求める。下の人たちはたまらないよね。あれじゃぁ人はついて来ないし、一緒に組んでやる人たちは他部署も関係会社も悲鳴あげちゃうよね。」
Kさんの言葉にうんうんと頷きながらも心がチクリと痛んだ私です。
何故って、以前の私そっくりだからです。
Tさんの胸のうちは分かりませんが、私はと言えば、自分が完璧にこなしているという意識はなく、他人にも完璧を求めているという意識も全くありませんでした。
ただ、これくらいのレベルは当然やってほしいという基準があり、そこに満たないメンバーには本当に口うるさかったように思います。
私がここまでできるんだから、みんなだってこれくらいはできるはず。いえ、やってくれないと困る。
そんな気持ちもあったかもしれません。
随分と自分勝手な理屈を他人に押し付けていたものだと今となっては思うのですが。
Kさんは続けます。
「『許さない!』と言う、その言い方がすべてを物語っているよね。職場は真剣勝負の場だから、そういう姿勢で仕事に取り組むよう『指導している』、とか、『促している』とかならわかるけど、『許さない!』って、つまりはTさん基準、Tさんルールしか認めないということだものね。それじゃあ、周囲は息が詰まるよね。」
本当にKさんの言う通りです。
実際、Tさんのチームは他部署への異動希望者が多く、退職者も毎年必ずいるようです。
Tさんの実力を買っているKさんは、何とか良い方法はないものかと以前から思案しているとのことです。
「『<許さない!>は許さない!』ってKさんがTさんに言ってみたらどう?」
最初はキョトンとしていたKさんですが、私の提案の意図が分かったのか、ニヤリとして大きく頷きました。
「『許さない!は許さない』ね。そうね。言ってみようかな。Tさんだってチームのみんなの成長を真剣に願っているし、やり方がちょっとひん曲がっているだけで一生懸命だから。言われる方の気持ちがどんなだか、ミラー効果を狙ってみるのも一つの手かもしれないですね。」
翌日、Kさんが早速、「『許さない!』は許さない!」とTさんに言ったところ、「どうしてそんな命令めいたこと、言われなきゃいけないのよ!」と猛反発されたそうです。
「だって、あなたはいつもそう言ってるじゃない。だから、ちょっと真似してあげたの。どんな気分だった?」と落ち着いた口調のKさん。
頭の良いTさんは、Kさんが伝えたかったことを察したのか、暫くの間、黙ってコーヒーを飲んでいましたが、その後、たった一言「ごめん」と言ったのだとか。
Tさんだけに限らず、一生懸命になるばかりにメンバーに強要するような強い口調でモノを言っているかもしれません。
許さない! は許さない!
気をつけたいものですね。