マネジメント・リーダーシップ

私は悪くない! ②

私はちゃんと評価されていない
私はもっと仕事ができる
私にばかり変な患者を当てがわれている

Kさんの心の声(実際に、相談室でも似たような事を漏らしたようですが)です。
(ここまでのお話は、昨日のブログをご覧ください)

「お客さんから拒否されているのに、患者さんの身体も満足に拭けないのに、どうしてそういう発言になるのか、何なんでしょうね。」
相談室スタッフさんのコメントですが、
「いえいえ、私も同じような経験ありますから、Kさんの気持ち、すごーくわかります。」
とお答えしました。

新卒で配属された首都圏の支店から地方都市の支店に転勤になった時、まさに私はKさんになっていました。
社会人になって初めて、お客様からクレームを頂いたのです。
「尾藤さんは不親切だ」
しかも、支店長へ直接にです。

支店長からあれこれ諭されましたが、私には私の言動の一体どこが「不親切」なのかが全く理解できませんでした。

首都圏時代と同じようにやっているだけなのに、地方では不親切だといきなり言われる。
地方のお客様のレベルが低いんだ。
なんで私がこんなレベルの低いお客様の相手をしなきゃいけないの?
私はもっとレベルが高いお客様の相手をして然るべき。
こんな地方でくすぶっている人間じゃない!
こんなクレームで評価されるなんて間違っている!

とまあ、今振り返ると、どれだけ世間知らずというか、鼻っ柱が強いというか、とんでもないヤツだったと思うのですが、当時は真剣にそう思っていたのですから仕方ありません。
支店長はもちろんのこと、お客様から私に対するダメ出しを直接頂いても、私は全く受け入れることができなかったのです。
「私が悪いんじゃない!言っているあなたがおかしいのよ!」
てな感じです。

事の詳細はいったん横に置いておきます。
私の言動は、教科書的には何も間違っていないし、いえ、100点満点だったと思います。
しかしそれはあくまでも、「教科書的」にです。
「ケースバイケース」という言葉を知っていても、それが具体的にどういうことかを理解していなかったのだと思います。

料理レシピの通りに作った。
評判のシェフのレシピ本。
だから美味しいに決まっている!
これをマズイとかなんとか言う人は、その人の舌がおかしいんだ!

でも本当にそうでしょうか?
レシピはあくまでもレシピ。
暑い時には塩分濃度を強いものを欲しますし、疲れた時には酸味を強く感じ過ぎてしまいます。
もともと薄味を好む人もいれば、歯ごたえのあるしっかりとした触感を好む人もいます。
つまり、季節や体調、好みによってレシピ本をマイナーアレンジする必要があり、それで初めて「美味しい!」となるわけです。

仕事も全く同じです。
習った通りに正しく行ったとしても、それが全ての人に対して完璧!であるとは限りません。
相手によってマイナーアレンジが必須です。
「そんな当たり前のコト、言われなくても当然です!」と一言で片づけてしまいそうですが、
そのマイナーアレンジ=匙加減が実はとても難しく、なかなかうまくできなくて四苦八苦してしまうのですね。

私が匙加減を全然できていなかったと本当に理解したのは、「正論(理屈)だけでは人は動かない。人に響かない。」ということを実感した時でした。
簡単です。
支店長やお客様から言われて受け入れることが全くできなかったのに、新入社員の頃からお世話になっている営業本部の先輩に相談して同じことを言われた時、すんなり受け入れることができたからでした。
どちらも正しい事だけど耳に痛い事でもあり、言われる人によって受け入れられたりそうでなかったりする。
「正論だけでは人は動かない。人に響かない。」の典型です。

夢だった看護師になり、大病院に就職できて、やる気満々のKさん。
一生懸命で優等生であるがゆえにはまってしまった落とし穴。
それは「もっと上へいきたい」「評価されたい」「なかなか素直になれない」ことかもしれません。
Kさんに対して必要なことは、あれこれ注意することでも担当変えをして戒めることでもなく、Kさんが目指す理想の看護師に向かって邁進していけるよう、心を開いて何でも話すことができる相手(メンター)を見つけることが最初のような気がします。

「クレームやトラブルだけを受ける相談室ではなく、メンター機能を併せ持つ相談室だったら理想的なのかもしれないですね。」
相談室長の言葉に、それができたら素晴らしい事だと私も賛同しました。

何を言うかよりも誰が言うか。
何を言うかよりもどのように言うか。

自分に自信を持つことは決して悪い事ではありません。
その自信がおかしな方向へ行ってしまわないよう、忙しすぎる病棟の先輩達も直接丁寧に関わることは難しくても、可能な限り温かく見守る努力をしているようです。
「私は悪くない!」
と孤立状態だったKさんですが、そんな周囲の見守りや室長の「匙加減」のアドバイスもあり、以前よりも突っ張り具合が緩和されてきたようです。

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