不適切販売で世間を揺るがしているかんぽ生命。
そのことに関するグループトップの記者会見の様子をニュースで見て、とても違和感を感じました。
今回の問題の背景を「今般の事態を招いたそもそもの要因は、貯蓄性商品の魅力の低下など営業が困難になったにもかかわらず、組織マネージメントを状況に応じて変えることができず、営業目標が新契約の獲得に偏っていた点にあると、現時点では考えております」と会見では述べられていました。
つまり、目標設定そのものが間違っており、マネジメントに問題があったと言っています。
にもかかわらず、その対策として今年度の保険の営業目標(ノルマ)を廃止するというのです。
ノルマと目標は違います。
ノルマとは組織から割り当てられた意味を持たない必須値であり強制的です。
一方、目標はその上位に必ず目的が存在し(数字に意味があり)、かんぽ生命で言うならば、会見で何度も述べられていた「お客様ファースト」、経営理念である「お客さまによりそい、一人ひとりの人生を守り続けていくために、全社員一丸となって歩んでいく」という目的を達成するための指標として存在するのが目標です。
つまり、目標単体がそれだけで存在するのではなく、目的あっての目標なのです。
今回、会見で述べられたそもそもの要因に間違いないのであれば、正されるべきは目標設定であり、それ以前としてマネジメント層の頭の中、理念に対するコミット、使命感の欠如等の根本要因の抜本的改革であって、もぐらたたきのように表面的に「目標止めます」などということではありません。
「こんな事じゃあ、根本的解決にはならないのに・・・。
それぐらいわかっているだろうに、どうして世の中受けするような薄っぺらい解決策しか言えないんだろう・・・。」
とても残念に思いました。
数年前、やはり金融業界トップ企業A社で不祥事が発覚し、全社改革を余儀なくされたA社のマネジメン層への意識改革のお手伝いをさせていただいた時、当時の販売部門トップが全マネジメント層・全営業にメッセージを発信しました。
「営業数値が一時的に落ちてもいい。お客様にとってベストなものをお勧めするように。目先の利益に囚われるのではなく、お客様一人ひとり、ベストなものは違うのだから、すべてはお客様のために最善と思われる、そういう営業活動に切り替えてほしい。
だからと言って、営業目標はなくさない。
営業目標は、『すべてはお客様のために』を目指す上で、『どれだけお客様にお役に立っているか』ということ数値化した指標だからなくすことはない。
しかし、決して目標達成を目的とした営業活動はするな!
目的はあくまでも『すべてはお客様のために』であることを忘れるな!
目標を達成するための営業活動ではなく、目的を達成するための営業活動であり、数値はその結果であることを、忘れないでほしい!
判断に迷ったら、悩んだら、今、自分の、自分たちの行動は、判断は、お客様のためか、それとも自分たちのためか、必ず立ち止まって考えてほしい。
『すべてはお客様のために』を寝ても覚めても忘れるな!」
このトップメッセージを私もA社の方々と一緒にリアルタイムで聞いたのですが、最初、現場のマネージャー達はとても冷ややかな感じで受け止めていました。
「そうは言っても、結局、目標いかなかったら、俺達が責任取らされるんだよな。」
「カッコいいこと言う前に、経営が責任取ってケジメつけてから言ってほしいよね。」
「お客様ファーストな営業活動だけしてたら、目標なんか絶対にいきっこないじゃん!」
現場の経営に対する不信感・不満感は相当なもので、彼らの意識改革は容易ではありませんでした。
それでも経営トップは何度も何度も時を変え、場を変え、言葉を変え、様々な形で「真にお客様から必要とされ続けるナンバーワン企業になるために、我々はどうあるべきか」を語り続けました。
その本気度が少しずつ現場に伝わり、また、現場マネージャー達が「トップ云々より、自分たちが会社を変えていくんだ!」とジブンゴト化して動き出すには、暫く時間がかかったのでした。
結局、それまでに染み付いた垢(企業体質)を落とすきっかけとなったのは、「トップの本気度」と「真因へのメス」だったと思います。
人も組織も体質改善は容易ではありません。
その状態が続いている期間が長ければ長いほど、難易度は増すでしょう。
「当たり前」になっていること、「普通」だと思っていること、が実は「おかしい」「普通ではない」「異常だ」「改めなきゃ」「失くしてしまおう」と気持ちが切り替わるのは簡単なことではありません。
けれども、絶対にあきらめないこと。本気で取り組むこと。痛い事から目を背けないこと。
これに尽きるのだと思います。
目標設定が悪いのではなく、マネジメントが機能していなかったのです。
目標のない企業なんてないのですから!
マネジメント、もっとしっかりしろ~!
ニュースを見ながらひとりブツブツ、テレビに向かって呟いていた私です。