誰だって変わることができる

上司を尊敬できません

お客様との間に小さな問題が起こっており、その解決のために関連部署と話をしているけれども責任のなすり合いで問題解決に至らず困っているAさん。
このままでは長年に渡るお客様との信頼関係にもひびが入ってしまうのではと心配ですが、上司には報告も相談もしていません。
「上司に報連相をしない理由は?」との問いに、Aさんは冷たい口調で答えます。
「知識もスキルも僕の方があるんです。上司から適切なアドバイスをもらえると思いません。」
なんか、昔々の私みたい・・・
心の中で苦笑しながらも、私は質問を続けました。

「けれども解決できないでいるんでしょう?それって、報告すべき事案ではないの?」
すると益々冷たい口調でAさんは言ったのです。
人として尊敬できないんです。嫌いなんです。」

出ました!「上司が嫌い」宣言。
人として尊敬できないと言われてしまうと話は終わってしまいそうですが、かつて自分もそう思っていた時代があり、Aさんの気持ちがよくわかるだけに、私はしつこくAさんとの話を続けました。

日頃から上司とはあまり言葉を交わさないというAさん。
「周囲はそれをどう見ている?」
との私の問いに、質問の趣旨が分からないという風な様子でした。

「Aさんももうすぐマネージャーでしょ?確か、もうすぐ昇進試験だよね?
『人として尊敬できないマネージャー』ってどういう人のこと?
今、上司に対して取っているAさんの言動は、Aさん自身が自分を客観的に評価するとして、他者から尊敬を得られそう?
つまり、Aさんは「人として尊敬できない!」と言われることはない?
今、そういう危険な種まき行動はしていないと胸を張って言える?」

私が言いたいことは当然理解しているAさん。
「どうすればいいんですか!? 嫌いなんですよ!」
と乱暴に言い放ちました。

「どうすれば良いんだろうね。
ただ、Aさんが自分のことで精いっぱいで今取っているその行動が、チームに良くない影響を及ぼしているかもしれないこと。自分で好まずして、自らがチームにマイナス要因を作っているかもしれないことは自覚した方がいいかもね。
そして、Aさんが思っている以上に、Aさんのそういう言動を周囲は見ていて、何かしら感じているだろうこともね。」

Aさんは理屈はすべて分かった上で、自分がどうしたらいいのか、「嫌い」という感情に囚われてしまい、前へ進むことができないでいました。

「嫌いとか、苦手とか、『感情』はいったん脇に置いておいて、自分で意識すればコントロールできる『行動』にフォーカスすることだよね。
Aさんが成し遂げたいものがあるのなら、上司もそれを達成するための手段と考えてもいいんじゃないの?上司とはそういう役割でもあるんだから。
手伝ってもらった、助けてもらったと捉えるのがイヤなんでしょ?
そうではなくって、上司の役割が果たせるように、仕事をさせてあげた、くらいに考えてみたら?お腹の中は誰も見えないから。
感情に負けない唯一の方法は、考え方と行動に意識を向けて、それだけを自分でコントロールし続けることだと思う。
ちっちゃなプライドという感情に負けないで。
大きな目標を見失わないで(考え方)、必要な適切な行動にフォーカスして!」

暫くしてAさんからもらった報告。
「上司に報告しました。実務面では僕の方が勝っていても、部署間の根回しとかパイプやコネは向こうの方があるかもしれないと思って。
そしたら、ちゃんと役割果たしてくれて、落としどころも決まって、お客様に迷惑かけずに済みそうです。
上司に『頼る』んじゃなくて『使う』と思うことにしました。
どう物事を捉えるか、ですね。要は考えよう。勉強になりました。」

Aさんは自分がマネージャーになった時、自分のような部下がいたらイヤだと心から思ったようです。
ではどんなだったらいいか。
自分よりも仕事ができる部下が、どう自分に接してくれたらマネージャーとして受け入れやすいかを、彼なりに考えたようです。

正解はありません。
ケースバイケース、人それぞれです。
しかし少なくとも、Aさんと彼のマネージャーとの「会話」は始まったようです。
「嫌い」が「好き」に変わるかどうかはわかりません。
しかし、会話という行動が起きたことで、嫌いという感情にもいずれ、何らかの変化が起こるかもしれないことを密かに期待したいと思います。

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