組織開発

マニュアル作っている暇なんかないです・・・

数日間の出張中、オフィスでなければどうしてもできない仕事を留守舞台のKさんに依頼したMさん。
快く二つ返事で引き受けてくれたKさんに心から感謝していたのですが、その感謝の気持ちもほんのつかの間、Kさんへの不満を漏らしたのです。

「いえね、手伝ってくれるのはすごく助かるし本当にありがたいです。けどね、マニュアル作れって言うんですよ。ただでさえ忙しいのに、わざわざマニュアル作ってる暇なんかないですよ!」

MさんのKさんへの不満は事前のマニュアル作成依頼にあったのです。
これはMさんに限らず、本当によく聞こえてくる事案です。
後輩や転任者に引継ぎしなきゃいけないけどマニュアル作ってる暇がないから自分で結局やっている。
マニュアル作ってる暇なんかないんですという、永遠の課題とも言えるあるある事案です。

「忙しいからマニュアル作る暇ない。マニュアルできないから引き継げない、頼めない。引き継げないし頼めないから忙しさがなくならない、どんどん忙しくなる一方。」
まるでニワトリと卵問題のように、堂々巡りしてしまうマニュアル問題です。

「それでどうするの?」
との私の問いに、Mさんは口を尖がらせて不服そうに言うのです。
「作らなきゃ仕方ないですよね。オフィスじゃなきゃできない仕事ですから、出張先に持っていくわけにはいかないんですから。こんなんだったら頼むんじゃなかった!」

あまりにもブツブツと文句を言うMさんに、
「だったら頼むの止めたら?」
と私は言ってしまいました。
「そんなにブツブツ言うなら、やめればいいじゃない。」
「だって、他に方法ないですから!」

KさんでなくてもMさんが置いていく仕事は誰もわからず、簡単な説明は必要らしいのです。
Mさんとしてみれば、丸投げするつもりはないですが、簡単に口頭説明程度で終わらせたいというのが本音で、「マニュアル作り」というその言葉だけで、すでにうんざりしているのでした。

口頭説明が適切なのかマニュアルをしっかり作ることが適切なのかは私にはわかりません。
しかし、そんなにブツクサと不満を口にするのであれば、そのマニュアルの程度(中身の濃さ)について、Kさんと話し合ってみてはどうかと提案してみました。
Kさんが求めている程度とMさんがイメージしているモノとは異なる可能性もあるからです。
それに、折角快く引き受けてくれたKさんなのに、こんなに陰でブツブツと言われているだなんて、知ったらガッカリするに違いありません。
MさんのKさんへの感謝だって、なくなりかけているのですから。

私は『和解のテーブル』の話をMさんにしました。
その上で、Mさんが気持ちよく安心して出張へ行くために、Kさんへの感謝をクリーンな状態にするためにも、もちろん言葉を選ぶ必要はありますが、Mさんの心の中とKさんの心と頭の中を擦り合わせてみることが良いのではとMさんに提案したのです。

話し合って解決できないことは、そう多くはないと私は思っています。
もちろん話し合いの中身が大切なことは言うまでもありません。
言うべきことはしっかりと伝える(適切な言葉を選ぶことが大前提)
相手の発言にもしっかりと耳を傾ける。
自分はAだ、君はBだ、折り合わない、物別れ、と単純に終結するのではなく、AとBからA’またはB’が生まれるかもしれないし、Cが生まれるかもしれない。
自分の考えを主張するのではなく、互いにとってのベストは何かを共に探すつもりで話し合うのです。

Mさんにとっては、留守中の仕事をしっかりと引き継いで行ってもらえること。そして、出張が多いMさんですので、ゆくゆくはその業務をKさん又は他のメンバーに完全引継ぎできることが「今」と「将来」のベストです。
一方、Kさんにとっては、Mさんの留守中の仕事を手伝うことで、尊敬しているKさんの仕事ぶりを学べるチャンスであり、自分の仕事の枠を広げるきっかけにしたいとも思っており、今回のことが自分の成長につながるであろうことが「今」と「将来」のベストです。
口頭引継ぎがKさんのトレーニングになるかもしれませんし、Mさんが作ったマニュアルがKさんの今後の大きな財産になるかもしれません。
Kさんを育てたことでMさんの仕事のいくつかが引き継がれ、一層Mさんの仕事の枠も広がるかもしれません。

結局のところ、「今」だけを見ていては解決できないことも、「将来」を見据えることで、今のほんの少しの不自由や不便も「生みの苦しみ」と捉えることができるのかもしれません。

MさんとKさんの話し合いは果たしてどうなるのでしょう。
しかし「話し合ってみる」と前向きに決めた時点で、Mさんはまた一歩、成長できたのかもしれません。

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