戦略人事

「壁打ち相手」に相応しいのは、AIか、コンサルタントか?

『AIに何でも聞けるようになったら、コンサルタントはいらなくなるのか?』

こんな言葉を耳にするようになりました。

経営者や管理職は、日々大きな意思決定を迫られます。
その判断の質を高めるためには、自分の思考の枠を越える「壁打ち相手」が欠かせません。
近年、その相手としてAIが急速に存在感を増しています。

では、壁打ち相手として選ぶべきは、AIなのか。 それとも人間のコンサルタントなのでしょうか。

AIが壁打ち相手として優れている点

AIの最大の強みは、圧倒的な情報量と処理速度です。
世界中の過去から現在までのデータを瞬時に整理し、必要な要素を的確に返してくれます。
「世界中の知を即座に引き出せる参謀を手元に置いている」と言っても過言ではありません。

私自身もAIを日常的に活用していますが、その有用性は実感しています。
AIを使いこなせれば、思考の枠を広げることも十分可能です。

ただし、AIの力を引き出すには、一度の質問で終わらせず、何度も問い直し、試行錯誤することが重要です。
また、AIには得手不得手があり、それぞれの強みを活かした複数の使い分けが求められます。

AIを使いこなすための前提条件

しかし、ここに重要なポイントがあります。

AIで思考の枠を広げるには、使い手自身に思考の柔軟性があることが前提となります。

つまり、AIは「あなたが投げた問い」に対して最適解を返します。
問いの質が高ければ、得られる答えの質も高まります。
逆に言えば、思考が硬直していれば、AIもその枠の中でしか答えられません。

では、その思考の柔軟性はどう育つのでしょうか。

自分の思考の癖に、自分で気づくくのは非常に困難です。
だからこそ、他者との対話が、その柔軟性を育てる土壌になります。
他者との対話を重ねることで、自分では見えなかった思考の枠に気づき、 結果として、AIをより効果的に使いこなせるようになります。

AIが本質的に苦手とする領域

もうひとつ、AIには構造的な限界があります。

AIは過去のデータから学習する仕組みです。
そのため、「未知」「不規則」「不連続」を扱うことが本質的に苦手です。

しかし、これらは経営の現場では当たり前の事態です。
過去に前例のない判断、予測不可能な変化、不連続な転換。
このような局面こそ、経営者の真価が問われる場面です。

将来的にAIが進化し、より高度な対応ができるようになる可能性はあります。
しかし、人間同士の信頼関係の中で生まれる対話は、 技術だけでは代替できない本質的価値を持っています。

人間のコンサルタントが果たす役割

では、人間の壁打ち相手は不要なのでしょうか。

結論として、両者はまったく異なる機能を持っています。

人間のコンサルタントとAIの決定的な違いは、 コンサルタントは、あなたに問いを投げる側に立てるという点です。あなたがAIにプロンプトを投げるのではなく、 コンサルタントがあなたに問いを投げかけます。
しかも、あなたの特性や思考の癖を理解した上で、自然に枠を外すサポートができます。

「プロンプト入力以前」の段階への介入

そして最も重要なのは、AIへプロンプトを入力する以前の段階への関わりです。

未知で不規則、不連続な事態に直面したとき、 経営者に求められるのは、

  • 何を目指すのか(ゴール設定)
  • どこまでやるのか(覚悟)
  • 今、決断するのか(決断への後押し)

といった、言葉にする以前の内面的なプロセスです。

これらは感情と価値観を扱う領域であり、 人間でなければ務まりません。

たとえば、ある経営者は「新規事業への投資を増やすべきか」と悩んでいました。
しかし対話を重ねると、本当の問いは「投資額」ではなく、 「この事業に自分の残りのキャリアを賭ける覚悟があるか」でした。

この問いに辿り着くまでのプロセスは、AIには担えません。

AIに問いを投げるには、まず問いを言語化できなければなりません。
ところが、経営の最も困難な局面では、「何を問うべきか」さえわからない。
頭の中は混沌としていて、言葉にならない。
その混沌とした状態から、問いを立てるまでの過程に、人間の介在が必要なのです。

コンサルタントだからこそ扱える領域

特に経営層が抱える、

  • 社内では話せないテーマ
  • 感情や葛藤を含む判断
  • 孤独な意思決定

これらは、文脈と人間性を深く理解できる、人間同士でしか扱えない領域です。
コンサルタントは、 あなたの思考の枠を広げ、真因を見抜き、 感情に寄り添い、共に悩み考える伴走者となります。

ただし、これらはすべてのコンサルタントができることではありません。
クライアントの本質を見抜く力、対話を通じて思考を変容させるスキル。
これらは、コンサルタント自身の研鑽と経験、 そして何より人間への深い理解と関心に依存します。

AIとコンサルタントの協働という可能性

では、実際にはどう活用すべきでしょうか。
最も効果的なのは、AIとコンサルタントを協働させることかもしれません。

たとえば、

  • コンサルタントの問いかけで思考の枠が外れる
  • その新しい視点をAIで深掘りする
  • AIの出力を、コンサルタントとクライアントが一緒に吟味する
  • さらなる問いが生まれ、また対話が深まる

この往復が、意思決定の質を最大化します。

結局、どちらが正しいのか

答えはシンプルです。
「どちらが優れているか」ではなく、「今のあなたに何が必要か」です。
壁打ち相手を「どちらか」と絞る必要はありません。
「両方」と断定することもありません。

あなたにとって、今、その時、必要なのは何なのか。
それを見極める目を持つことが重要です。

AIは優れた情報参謀。
人間のコンサルタントは、問いを立てる以前の段階から、あなたと共に考える相手。

経営者・管理職に必要なのは、壁打ち相手を「選び抜く目」を持つことです。

AIが高度化する今だからこそ、 『誰と、どう考えるか』という問いが、経営者にとってより重要になっています。

私自身、長年この仕事を続けてきて確信していることがあります。
人間が好きで、人間を深く理解しようとするコンサルタントは、 これからも必ず必要とされる、と。
なぜなら、経営の本質は、人間の意思と決断にあるからです。

もし、今あなたが大きな判断を前に立ち止まっているなら、 一度、人と対話する時間を持つことをお勧めします。
その対話が、見えなかった視点を開くかもしれません。

『組織を強くする実践知』
 最新記事をメールでお知らせ!

 ✔ 無料 
 ✔ いつでも解除OK
  こちらから登録してください!
  リーダー育成・組織開発の最前線から、あなたのビジネスを加速させる実践知を毎日お届けします。 

タイトルとURLをコピーしました