仲介業のNさん。
AさんとBさんとの案件では双方が直接やり取りすることはなくNさんが間に入るのがルールなのですが、なぜかBさんがAさんに直接連絡を取り、そのことをAさんから聞いたNさんがBさんにこんな風に言いました。
「前任からも説明していると思いますし規約にもあるように、直接の連絡は困るんです。」
するとNさんが最後まで言い終わらないうちに、Bさんから物凄い反撃に合ってしまいました。
「前任者さんからは、どちらでもいいような話をされましたよ。実際、〇〇の案件で前任者さんに連絡した際には、『そういうことなら直接Aさんに言ってもらっても構わない』と言われました。その時、何だかとても迷惑そうな感じで、正直、あまりイイ感じはしませんでした。だから今回は直接Aさんに連絡したんですよ。」
これまで穏やかで気持ち良い取引きをしていたBさんはまるで別人のようでした。
何とか電話でのやり取りを終えましたが、Bさんの怒りがどこに向いているのか分からず戸惑ってしまったNさんから相談を頂きました。
本当のところはBさんに直接聞いてみなければわかりません。
しかし私がNさんからお話を聞いてまず一番に引っかかったのは、最初のNさんの物言いです。
「前任からも説明していると思いますし規約にもあるように、直接の連絡は困るんです。」
これは、相手の事情を聞く姿勢を全く持たず、ただ「あなたはダメだ」と言っているのと同じことです。
Aさんからどのような説明があったのかはわかりません。
しかし、BさんにはBさんの何か事情があったのかもしれません。
にも拘わらず、「あなたはダメだ」といきなり言われては、Bさんが不愉快に感じるのも仕方ないでしょう。
さらに、Nさんは「前任から説明して」と言っているのですが、それはNさんが前任者から聞いた話です。
ところがBさんが言っていることは「前任者さんからは違う風に説明を受けている」です。
どちらが本当かは分かりませんが、そこにいない第三者である前任者を話の中心においてしまっては結論を出しようがありません。
話が空転するばかりかBさんからしてみたら、「お客の私よりも社内の人間の話を信用するということなのね!」と不愉快に感じたのかもしれません。
Aさんの言い分。
Bさんの言い分。
そして前任者から聞いた話。
NさんはAさんの話と前任者からの話だけで判断をしてBさんにNoを突き付けました。
そこに悪気はなかったとしても、Bさんなりに言い分があるのですからBさんの立場になってみれば腹が立つのも当然と言えるでしょう。
では、NさんはBさんに何と言えば良かったのでしょうか?
コンサルテーションの結果、Nさんが考えたのは次のような言い方でした。
「Bさんから◇◇の件で直接ご連絡いただいたとAさんから伺いました。前任からの説明不足があったかもしれませんが、次回からは私共にご連絡いただけますか?そのために、私共が存在しております。これまでに私共に何か不手際等があって連絡したくなかったというようなことが過去にあったのでしたら、是非、お聞かせください。」
いきなり「あなたはダメ!」とNGサインを出すのではなく、「依頼」と言う形に言い換えたNさん。
もっと別の言い方もあるかもしれません。
しかし、ここでは決して相手にダメ出しをしていませんし、Bさんの話を聞こうという姿勢が見て伺えます。
その後、NさんはBさんに連絡を取り、前回の自分のモノ言いの無礼を詫び、Bさんの話を聞きたいと申し出たそうです。
最初は不機嫌だったBさんも、自分の言い分にNさんが耳を傾けてくれたことにより心の中の氷の塊は解け、実勢に前任者の説明不足があったことがAさんからも確認でき、おまけにAさんも実は前任者に小さな不満を抱いていたことが分かりました。
一方を聞いて沙汰するな
とはよく言われることですが、今回のような三者間の話を更に別の人間が取りまとめる際にはなおさらのことです。
「どんな言い方をするか」のHow to もさることながら、まずはしっかりとそれぞれの考えと気持ちを聞き、公平な立場のもとで話を進めていくことが大切なのですね。