新年度がスタートしてまだ数日ですが、「もうダメです・・・」と消え入りそうな声で早くもご相談を頂いたのは、若くして抜擢人事を受けて栄転になったマネージャーのKさんでした。
Kさんのチームは地方の中核都市にある大手企業の支店の営業部で、メンバー全員がKさんより年上です。
Kさんにとっては初めての土地になるのですが、他のメンバーは皆、近県の出身だったり学生時代をそこで過ごしたりと、何かしらの縁があっての配属となっているようです。
発令時はとても張り切っていたKさんなのに、一体何がダメなのか、一体何が彼をここまで意気消沈させてしまったのか、詳しく話を聞いてみました。
するとKさんの落ち込み要因は、なんと!お客様との関係性でした。
お客様が自分をよそ者としてしか思ってくれず受け入れてくれない。
どうせ2-3年で東京へ帰る人に相談なんてしても無駄だと取り合ってくれない。
どんなに頑張ろうと思っても、お客様が目に見えないバリアを張って自分を跳ね返そうとする。
こんな風にKさんの言い分が長々と続きました。
「お客様との問題でストレスを相当感じているみたいだね。けど、今までだってKさんはすごい修羅場を何度も潜り抜けて成績出してきてるんだよね。これまでと何が違うの?新しい土地だから不安になったの?」
するとKさんはポソリと呟きました。
「だって、誰にも言えないじゃないですか。みっともなくて。情けなくって。今までの仲間になんて絶対に言えないし、新しいメンバーだってまだ僕のコト品定め状態だろうし。誰かに相談しようにもアドバイス受けようにも、誰にも言えないんですよ。ストレスかからない方がおかしくないですか?」
「どうして?新しい土地で、その土地柄とか人柄とか、まだ全然わからないんだもの。聞いてもいいんじゃないのかなぁ。マネージャーはあくまでも役割であって、それ以上でもそれ以下でもない。その土地のことは新人でしょ。支店の人たちの方がそこはベテランで先輩だよね。閉鎖的な土地柄なんだって言うけど、だったら余計に、今、そこに馴染んでいるみんなから話を聞かない手はないんじゃないのかなぁ。」
「尾藤さんにはわからないんですよ。僕がどんなに大変か!」
「うん。わからない。Kさんじゃないから。けど私もかつてお客様に言われたことあるよ。『仕事欲しいと思ったら、この土地で家買って、墓も買って、骨埋めるくらいのつもりでいる人とじゃないと、取引なんかできない』って言われたよ。『東京弁話す人とは会いたくない』って言われたこともあるよ。で、立派に病気になった。」
「え?そうなんですか?」
「うん。かなり辛かったし重症だったと思う。」
「で、どうしたんですか?」
「後輩に相談した。生まれも育ちもその土地で、学生時代の数年間は東京だったけど、それ以外はずっとその土地にいる後輩に相談した。『郷に入っては郷に従え』じゃないけど、その土地の土地柄、人柄について一番知っている人だと思ったから。後輩って言っても10歳も年下だったけど、その子に相談した。」
「それで?」
「結果的には色々なことが良い方向へ向かっていった。
その時に思ったことは、『言いたいことが言える相手、言い合える相手がいるって、それだけで財産であり幸せだ』ということ。
私は胸襟を開いて言いたいこと、聞きたいこと、感じたことを言えたこと、それに思ったままにダメ出ししてくれたり、アドバイスしてくれたり、時には嫌味を言われたり、そんな10歳年下の後輩がいたこと、それがとっても幸せなことだってわかった。」
Kさんは黙って私の話を聞いていましたが、自らも見えないバリアを支店のみんなやお客様に対して張り巡らしていたかもしれないと言い、早速、メンバーの中で一番話しやすいと感じている人に、今の自分の状況について話をしてみると言ってくれました。
解決するかもしれないし、全くしないかもしれません。
何かヒントが見つかるかもしれないし、話して終わるだけかもしれません。
しかしそれでもかまわないと思います。
人は言いたいことを言い合える相手がいるだけで、とても幸せなことだと思うのです。
言いたいこととは、思ったこと、感じたこと、嬉しいこと、楽しいこと、悲しいこと、辛いこと、苦しいこと、困ったこと、要は何でもです。
心の内側をさらけ出せる相手がいるということです。
構えて生きるのはしんどいものです。
それはプライベートであってもビジネスであっても同じです。
いえ、厳しい環境下にいるのであればなおさらのこと、身近に言いたいことを言い合える相手がいるに越したことはありません。
たった一人でもいればそれは素敵なことですし、チーム全体がそうならば、こんなに素晴らしいことはないでしょう。
言いたいことが言い合える相手。
心の内側をさらけ出すことができる相手。
あなたの傍にはそんな人がいますか?